ボーカル ハンドヘルドマイク比較
ボーカルの方の中には「いまいちSHURE SM58好きになれない...」という方もいらっしゃると思います。
確かに我々エンジニアは、例えばドラムであれば、KickにはAKG D112やaudio-technica ATM-25,SnにはSHURE SM57,Beta57A,H/HにはAKG C451,TOMにはSENNHEISER MD421とそれぞれを使い分けています。
Recordingになると曲によって、アンプの出す音にマイクも変更するのが当たり前です。
なのにライブにおいてボーカルマイクというと男女問わずSHURE SM58が使用されています。非常に優秀なマイクであり、ベストセラーのマイクですが、ちょっと疑問が残る部分もあります。
いわゆる「『とりあえずSM58』に物申す」というわけではありません。「マイマイク」を探している人のちょっとでも参考になれば、と思い情報を集めて見ました。
代表的なライブ向けボーカルマイクの性能比較です。
簡単なコメントもありますので参考にしていただけると思います。
このマイクの特性は?
記載されている情報はメーカー、代理店の公式情報です。コメント部のみ筆者の主観が入っていますが、極力客観的な表現を心がけたつもりです。
SHURE SM58
Spec
- 指向特性:カーディオイド
- 周波数特性:50Hz ... 15kHz
- インピーダンス:150Ω
- 開回路感度:-54.5dB re 1V/Pa
- コネクタ:XLR3ピン、オス
- 寸法・質量:φ51×全長165mm、310g
- 付属品:マイクホルダ(A25D)、マイクポーチ、3/8"→5/8"変換ねじ
Comment
冒頭に書いておきながら、このマイクを紹介するときには「定番ボーカル向けマイク」としか紹介できない自分の語彙の少なさが...
ライブハウスなどに良くある「あれ」です。
おそらく、昔はPAの現場でも周波数レンジは今ほどは広くなかったし、頑丈さ、という観点からも良いマイクといえると思います。
改めて聴いてみて、やはり良いマイク、という印象はぬぐえないですね(これで育ってきているというのも大きいと思います)。
SHURE BETA58A
Spec
- 指向特性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:50Hz ... 16kHz
- インピーダンス:150Ω
- 開回路感度:-51.5dB re 1V/Pa
- コネクタ:XLR3ピン、オス
- 寸法・質量:φ51×全長164mm、278g
- 付属品:マイクホルダ(A25D)、3/8"→5/8"変換ねじ、マイクポーチ
Comment
Super Cardioidパターンの指向性を持つので。正面できちんと歌わないと収録にムラが出てしまいますが、ハンドヘルドだとそこまで気にしなくてよいと思います。
SM58のリファインモデルという位置づけですが、音質はだいぶ異なりだいぶ高域が出ます。「ボーカル」というよりは、ラップやHuman Beat Boxなどマイクを包み込むハンドリングをしてしまうジャンルの方に大きくお勧めできるマイクです。
逆に女性ボーカルだとシビランスが気になる可能性もあります。
SHURE BETA57A
Spec
- 指向特性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:50Hz ... 16kHz
- インピーダンス:150Ω
- 開回路感度:-51dB re 1V/Pa
- コネクタ:XLR3ピン、オス
- 寸法・質量:φ43×全長160mm、275g
- 付属品:マイクホルダ(A25D)、3/8"→5/8"変換ねじ、マイクポーチ
Comment
SM57のリファインモデルということで楽器に良く使われていますが個人的にはボーカル用としても大いにお勧めできるマイクです。個人的には大好きなマイクで「このマイクで、収録に向かないものはKickだけ」といっても過言ではないくらい守備範囲の広いマイクです。
スペックはBeta58Aをあまり変わりありませんが音質は大きく異なり、「高域を強調しました」という感じをあまり受けません。自然な感じでヌケの良いマイク
と言ってよいと思います。
SHURE KSM8/B Dualdyne™
Spec
- 形式 : ダイナミック
- 指向特性パターン : カーディオイド
- 最低再生周波数帯域 : 40 Hz
- 最大再生周波数帯域 : 16 KHz
- 感度(dBV/Pa) : -51.5 dBV/Pa
- 感度(mV/Pa) : 1.85 mV/Pa
- 質量 : 330 g
Comment
新たなスタンダードを生み出すべくSHUREが威信を掛けて開発しSM58のリリースから50年という節目の年にリリースしたマイクです。
SHUREの音質はしっかり残しつつも近接効果が低減されているためマイクと口元との距離が変わることによる音質変化を受けづらくなっています。
大きな可能性を秘めたマイクです。
SM58のように使えてSM58よりも使いやすいマイクです。
audio-technica AE6100
Spec
- 指向特性:ハイパーカーディオイド型
- 周波数特性:60 ... 15,000Hz
- 感度(0dB=1V/1Pa、1kHz):-55dB
- 出力インピーダンス250Ω平衡
- 仕上げ:シアターブラックつや消し焼付塗装
- 質量310g
- 付属品:AT8470 マイクホルダー、マイクポーチ、変換ネジ
Comment
audio-technica Airtist Eliteシリーズのボーカル向けハンドヘルドマイクです。audio-technicaのややマイルドな音質は健在で、「自分の声が細く聞こえる...」という女性ボーカルの方にはお勧めできるマイクかと思います。
実際店頭でも女性の方にお買い上げいただくことが多いです。
audio-technica ATM98
Spec
- 型式:ダイナミック型
- 指向特性:単一指向性
- 周波数特性:70 ... 16,000Hz
- 感度(1V/Pa、1kHz):-57dB
- 出力インピーダンス:250Ω
- 外形寸法:φ46×179mm
- 質量:325g
- 仕上げ:マットブラック焼付塗装
- 付属品:マイククランパー AT8470、変換ネジ(3/8-5/8)、ポーチ
Comment
「中域のaudio-technica」の印象を覆すというと言い過ぎかもしれませんが,マイルドで太い音く,パンチあるが特徴のマイクです。「中低域でボーカーの存在感アピールしたいんだよなー」という方におすすめです。
ボーカル以外にもいろいろ使用可能なマイクです。
Sennheiser e945
Spec
- 指向性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:40Hz ... 16,000Hz
- インピーダンス:350Ω
- 寸法:直径47mm、長さ186mm
- 重量:330g
Comment
SENNHEISER(ゼンハイザー)のevolutionシリーズのボーカル向けハンドヘルドマイクです。今回一通り試した中では一番好印象なマイクなのですが、それもそのはず。「値段が...」、という印象です。
中域から高域へのつながりが非常にスムーズであらゆるジャンルに対応できるポテンシャルを持ちます。リバーブののりもよいでしょう。
「欲しいけど予算が...」という光景が目に浮かぶイチオシマイクです。
ちなみに弊社土浦店のスタッフ(ボーカル?)の愛用マイクでもあります。
Electro-Voice PL24
Spec
- 指向性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:80-16kHz
- インピーダンス:600Ω
- 寸法:直径53mm、長さ184mm
Comment
世界的に有名なElectro-Voice社のボーカル向けハンドヘルドマイクです。
音のキャラクタはSM58をちょっとクッキリと派手にした感じで、少し低域が持ち上がっている気がします。
ヌケのある太さ、という表現がぴったりでしょうか。値段もお手ごろ!今回チェックした中では一番コストパフォーマンスに優れているでしょう。
TELEFUNKEN M80
Spec
- 指向性:カーディオイド
- 周波数特性:30-18kHz
- インピーダンス:200Ω
- 寸法:直径48mm、長さ184mm
- 重量:371.39g
Comment
スタジオヴィンテージとして有名なTELEFUNKENのダイナミックマイクです。
音のキャラクタはちょっとエッジがきいていて(いるけど)、耳が痛くない感じ、という感じでしょうか。ジャリッというよりは、キラっとした感じです。男性女性ともに使えるマイクだと思います。
存在感のある太さ、という感じです。
AKG D5
Spec
- 指向性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:70Hz ... 20kHz
- 開回路感度-52dBV re 1V/Pa
- インピーダンス:600Ω以下
- 寸法:直径51mm、長さ185.2
- 重量:340g
Comment
ドイツが誇る名門のボーカルハンドヘルドです。ヨーロピアンな上品さとふくよかさを持っています。D7と比べるとどちらかというとこちらの方が低域にエネルギーがシフトして聞こえます。
高域のサラっとした感じも魅力です。
AKG D7
Spec
- 指向性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:70Hz ... 20kHz
- 開回路感度-52dBV re 1V/Pa
- インピーダンス:600Ω以下
- 寸法:直径51mm、長さ185.2
- 重量:340g
Comment
こちらもAKG。ドイツが誇る名門のボーカルハンドヘルドです。ヨーロピアンな上品さとふくよかさを持っています。
D5より音が前にで来る感じで、高域のサラっとした感じもD5よりもう少し伸びている感じがします。先日店頭で試して頂いた時にはD7を聞いた瞬間Vocalさんが思わず「あっ」と。そんなポテンシャルを秘めたマイクです。付属のポーチもおしゃれ!
Other tips of above Microphones
マイクの周波数特性、指向性以外に重要なのが「感度」です。声による試聴ですので完全なことはいえませんが、SM58より、それ以外のマイクは3,4dB音量が大きい感じがします。上記Specの感度の値が同じに関わらず、です。
おそらく、テスト信号に1kHzを使用しているところもあればPinkノイズを使用しているところもあるからではないでしょうか?
上記コメントはあくまで僕の声を僕が聞いて試した印象ですので最終的にはご自身の耳と声でご確認いただくのが一番です。
店頭でも「●×△ください」という場合を除いては極力試聴の後、お買い上げいただいています。
Other Microphones
上記はすべてダイナミックマイクです。取扱の手軽さ、頑丈さなどからやはりメインで使いやすいマイクですが、「せっかくなら自分の声質を活かせるコンデンサーマイクも視野に入れたい!」という方のためにザクッとですがリストアップしました。
コンデンサーマイクは非常に繊細な構造になっているため衝撃や湿度に弱いので取扱には慎重を要しますが、得られる音質はダイナミックのそれとは異なりワイドレンジで魅力ある音がします。
コンデンサーマイクの取扱上の注意事項
電源電圧の対応に注意
ほとんどが+48Vファンタム電源に対応していますが、まれに対応していないものもありますので注意が必要です。+48Vファンタム電源をかけたままコネクタを抜かない。
ある意味一番やっちゃいけないことです。XLRピンの長さの違いにより電極間に大きな電圧がかかりダイアフラムやマイク内部のプリアンプの破損の可能性があります。
可能であれば+48Vの電源を切った後もコネクターを抜くまでしばらく放電時間をとるとよいでしょう(10sec-30secほど)。湿度や衝撃に弱いので取扱に気をつける
コンデンサーマイクに限らず乱暴に扱ってよいものなど、音響機器にはほとんどありません。機材にも愛を!
AKG C5
Spec
- 形式:コンデンサー型
- 指向特性:カーディオイド
- 周波数特性:65Hz ... 20kHz
- 開回路感度:-48dBV re 1V/Pa
- 最大音圧レベル:145dB SPL(THD 3%)
- 等価雑音レベル:25dB SPL( Aウェイト)
- インピーダンス:200Ω以下
- 電源:ファンタムDC 9 ... 52V(48V推奨)/約3mA
- コネクター:XLR 3ピン
- 寸法・質量:φ51×185.2mm、345g
- 付属品:マイクホルダー
Comment
コンデンサーマイク,という先入観で視聴すると一瞬「?」となります。御客さんといろいろ試した時に一番ミッドレンジが芳醇だったのはC5でした。スムーズな中域が美しいマイクです。Jazzなどの女性ボーカルなどに最適なマイクでしょう。
Ehrlund Microphones EHR-H
Spec
- TYPE : Ehrlund特許 "トライアングル・カプセル・メンブレン" コンデンサー・マイクロフォン
- 指向特性 : カーディオイド
- 周波数範囲 : 7 ... 87,000 Hz
- インピーダンス : あらゆるインピーダンス値にも対応(周波数特性も変わりません)
- セルフノイズ(絶対レベル) : 9 dBA以下
- 最大入力音圧レベル : 135 dB
- 動作電圧 : 48 Vファンタム電源,2.0 mA
- コネクター : 標準3ピンXLR
- 構造 : アルミニウム製本体,高靱性ステンレス鋼製メッシュ.マットブラック・パウダーコーティング仕上げ
- 寸法 : ø53 mm×152 mm
- 重量 : 272 g
Comment
Linerに近い位相特性のおかげかマイクの存在感を感じさせないマイクです。87kHzまで延びた周波数特性も驚異!
Ehrlund Microphones EHR-H製品レビューSHURE BETA87A
Spec
- 指向特性:スーパーカーディオイド
- 周波数特性:50Hz ... 20kHz
- インピーダンス:150Ω
- 開回路感度:-52.5dB re 1V/Pa
- 等価雑音レベル:23.5dB SPL(Aウェイト)
- 最大音圧レベル:140.5dB SPL(1kHz、THD0.25%)
- 電源:ファンタム DC11 ... 52V/1.0 ... 1.2mA
- コネクタ:XLR3ピン、オス
- 寸法・質量:φ51×全長192mm、200g
- 付属品:マイクホルダ(A25D)、3/8"→5/8"変換ねじ、マイクポーチ
Comment
自然な感じの音質はさすがコンデンサーといった感じです。最大音圧レベルも140dBと充分。ライブでボーカルさん持ち込みでオペしたことありますが、魅力的な音質だったのと今でも覚えています。
SHURE BETA87C
Spec
- 指向特性:カーディオイド
- 周波数特性:50Hz ... 20kHz
- インピーダンス:150Ω
- 開回路感度:-51dB re 1V/Pa
- 等価雑音レベル:22dB SPL(Aウェイト)
- 最大音圧レベル:139dB SPL(1kHz、THD0.25%)
- 電源:ファンタム DC11 ... 52V/1.0 ... 1.2mA
- コネクタ:XLR3ピン、オス
- 寸法・質量:φ51×全長192mm、200g
- 付属品:マイクホルダ(A25D)、3/8"→5/8"変換ねじ、マイクポーチ
Comment
上記Beta87Aと基本的に同じスペックながらこちらはカーディオイドパターンの指向性を持つマイクです。
CAD C195
Spec
- 指向特性:カーディオイド
- 周波数特性: 50 Hz - 18 kHz
- 開回路感度: -55 dB (0 dB = 1 volt per microbar)
- インピーダンス: 500 ohms
- ダイナミックレンジe: 110 dB
- 等価雑音レベ: < 22 dB, A weighted
- 最大音圧レベル: 132 dB (1% THD, open circuit)
- 電源: 9 - 52 V
Comment
高域のシャープさが持ち味のCADのマイクらしくしゃきっとした音質です。ボーカル用ハンドヘルドというだけあって単純にフラット、というだけではなくちょっと癖のある周波数特性曲線をしています。CAD95の後継機種といっても問題ないマイクです。
ダイナミックマイクと変わらない価格帯も魅力のひとつです。
Sontronics STC-5
Spec
- 指向特性:カーディオイド
- 周波数特性: 25Hz - 20kHz
- インピーダンス: 200 ohms以下
- ダイナミックレンジe: 110 dB
- 等価雑音レベ: < 22 dB, A weighted
- 最大音圧レベル: 130 dB (1% THD, open circuit)
- 電源: ファンタムパワー 48V ±4V
Comment
こちらも高域のシャープさが持ち味です。周波数レンジを見ると、声以外にも積極的に使っていけそうなマイクです。
Afterwords
さあ、いかがだったでしょうか?代表機種だけをラフに集めてみた感じですが、それでもこれだけの選択肢があります。
思えば各楽器を演奏する方は自分の音や音楽を表現するべくいろいろ楽器や周辺機器にこだわりますが、ボーカルだけはあまりそういうことが少ないように感じます(それもここ最近だいぶ変わってきましたが)。
Speakerからでる自分の声に責任を持つという意味でも現状の「とりあえずSM58」に不満がある方は是非!!
タイミングが合えば、スタジオで試聴比較の後お買い上げいただけます。
余談ですが、SENNHEISER e945を使用している土浦店O嬢のマイクを決めたときには30本以上のマイクを試聴して決定していきました。丸一日かかりましたが。
そこまでは無理としても自分の声が一番理想的な状態で出力できるマイマイク。興味があれば是非御相談ください。
AE6100やATM98を製造しているaudio-technicaさんのおもしろ(?)動画「GET YOUR OWN MIC」です。その理由は動画を見れば明らかです。
date:
checker:Takumi Otani