SHURE
KSM8 Dualdyne™
今回見ていくのはあのSHUREが8年近くの歳月を掛けて開発したダイナミックマイク KSM8です。
SHUREと言えばSM58,SM57を始め,音楽に関わる方は必ずどこかでお世話になっているブランドです。
特にSM58は定番ボーカルハンドヘルドマイクロフォン,という栄誉ある称号を与えられ今でも年間最も売れているマイクだとか。
ちなみにSMシリーズのSM
はStudio Microphone
の略で,当初録音スタジオ用に開発されたものだったのですが,とあるミュージシャンがそれをステージで使用し「これ,めっちゃいいじゃん!!」となって爆発的に普及した,という経緯があります。一時期はSRスピーカーの開発にも影響を与えていたSM58。それを超える,今後5年10年の音楽シーンを見据えてSHUREが,奇しくもSM58のリリースから50周年という節目にリリースしたKSM8,さっそく見ていきましょう(Hibino I藤さん,いつもありがとうございます)。
Product Overview of KSM8 Dualdyne™
KSM8 Dualdyne™にはBlackとNickleがラインナップされています。外観以外のSpecは同じです。
で,そのスペックです。
- 形式
- ダイナミック
- 指向特性パターン
- カーディオイド
- 最低再生周波数帯域
- 40 Hz
- 最大再生周波数帯域
- 16 kHz
- 感度(dBV/Pa)
- -51.5 dBV/Pa
- 感度(mV/Pa)
- 1.85 mV/Pa
- 質量
- 330 g
周波数特性は
こんな感じです。
参考までに同社SM58とBeta58Aのそれは
こんな感じです(左がSM58の周波数特性)。
全く同じスケールで描かれていないのでぱっと見た感じの比較はしづらいのですが,僕が最初このグラフを見た時に違和感を覚えたのはKSM8の中低域の特性です。「60cmも離れているにもかかわらずフラット?」という印象がありました。Beta58Aの特性を見ていただくと分かりやすいのですが,200Hzあたりの特性は距離が,1/16になった時にはおよそ15dBほど上昇しています。この印象があったので「60cmでこれなら口元に近づけたら大事では?」と思っていました。
この低域が強調される現象は指向性マイクに特有の近接効果(Proximity effect)
と呼ばれる,「音源に近づくと低音のゲインが上昇する」という現象です(理由はこちら)。無指向性マイクには近接効果はありませんが,録音ならいざしらずSRの現場で使うにはハウリングマージンの低下,カブリの問題から積極的につかわれることは少ないと思います(昔DsのO/Hに使用した時は非常に好印象でした)。
SM58を口元から2,3cm離すだけでだいぶすっきりした音質になります。ただ,悪く言うと収録される音質が薄っぺらいものになっていきます。
マイクスタンドに固定されるものなら近接効果を考慮に入れた上でマイキングしていくのですが,ハンドヘルドボーカルマイクはそうはいきません。
You-Tube開発ヒストリー的な動画を見たのですが,KSM8は近接効果を少しは残してあるがSM58ほどの音質変化は少ないといのことです。
これを実現したのが超極薄ダイアフラム2枚(アクティブとパッシブ各1枚)と画期的な逆エアフローシステム Dualdyne™です。ちなみにですがシングルダイヤフラムは存在するのかというと,もちろんでそれはSHUREの特許 Unidyneシステムです。1939年に55 Unidyneに初めて搭載されてリリースされました。初代ガイコツマイクです。その後改良が重ねられ現行のSM58などはUnidyne IIIシステムです。Unidyneの登場によりハウリングマージンが広がり大規模なPAシステムでVocalを大きく拡声できるようになったとか。SHURE偉大ですね。
Sound Impression of KSM8 Dualdyne™
さて,店頭で「ワンツー」ではその性能は完全には把握できません。という訳で実際の現場に持ち込んで試してみました。
諸々セッティングが終わりCDで回線確認のあとワンツーです。感度がSM58より高いのでいつもと同じ位メーターを振らせると3dBほどGainは小さめです。
さぁ,いよいよ緊張の一瞬!Faderを上げてのワンツーですがワイドレンジにしっかり自分の声が聞こえます。SM58を使用した時より少しおとなし目な印象です。地味と言うよりはしなやかという感じでしょうか耳が痛い感じがあまりしません。2kHz-12kHzのSM58の高域のピーク
が無いためでしょう。
スピーカーの音質のせいなのかホールの音響特性のせいか低域を補正することが多かったですがさほど苦労はありません。当たり前ですがいつもとは異なるカーブに落ち着きました。
リハまでの時間がタイトだったのですぐにモニターのチューニング,に移りその後リハに移ったのですが,ヴォーカルさんがマイクをみて「あ,なんかかっこいいマイクがある!見たこと無い!」とつかみは充分です。「タイミングが合ったので君のために借りてきたよー。新製品よ。高いから壊さないでねー」と大嘘をつきリハに突入です。
何ら違和感なくリハは進んでいき,あとは本番です。
本番中はやはり出演者のステージアクション(?)を大きくなりますがVocalの声がマイクの軸外にずれた時,多少離れた時,Faderを上げればそれらを補正することができたのは驚きでした(程度問題ありますが)。
全く同じ音(=違うのは音量だけ)というわけではないのですがSM58でのそれとは大違いです。SM58だと一気に低域がなくなりますが,KSM8だと少しおとなしくはなるもののあの「細い」感じはありません。周波数的にはEQで補正も可能なのかもしれませんがLive中にそんなリアルタイムの音質補正は不可能です。せいぜいできるのはFader Controlでしょう。
想定外に離れられるとやはり限界はありますが,SM58より遥かにコントロールしやすかったです。また,SM58もそのステージに並んでいましたがKSM8でチューニングしたことによりSM58の音に違和感を覚えることもありませんでした。
Afterwords
ちょっとすごいマイクが出てきなた,という印象です。価格の観点からもすぐにSM58のReplacementになるとは思いませんが,Vocalマイクとして非常に有力な選択肢の一つです。
興味のある方はぜひ試してみてください。SHUREのVocal Handheld
の印象を変えてくれると思います。
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