beyerdynamic
MC 930 STEREO SET
お久しぶりです。2022年、ほとんどレビューできずに終わってしまいました。そして2023年、早くも出遅れた感のある製品レビューですが、2023年最初の(とはいってもすでに5月ですが)レビューはbeyerdynamic MC 930/MC 930 STEREO SETです。
MAJ/ABのK田さんのご好意によりbeyerdynamicのマイクを色々試すことができました。既述の通りbeyerdynamicのペンシルマイク MC 930です。
早速見ていきましょう。
Product Overview of MC 930 STEREO SET
byerdynamicというと皆さんどういうイメージをお持ちでしょうか。僕はSHUREやAKG、SENNHEISERと比べるとやや玄人好み、という印象があります。しかしその歴史は古く1924年創業の老舗です。同時期の創業ですとSHURE=1925年、Electro-VoiceV(Speakerのほうが有名だと思いますが)=1927年、Neumann=1928年です。
SennheiserやAKG,SCHOEPSは1940年代です。
またM 88 TGはPhil Collins氏 (Genesis)のお気に入りマイクとしても有名です。
ただ、Vocal handheld micが各社から多くリリースされたた時期がありましたが、beyerdynamicはその波に乗らなかった印象です(少なくとも日本国内ではそういう印象をうけましたので当時の代理店の方針かもしれません)。そのせいもあってかMicrophone brandを列挙した時にはやや後半に登場するブランドだと思います。
今はGaming headsetのBrandとしての印象が大きいかもしれませんが、僕はbeyerdynamic
と聞くとすぐにマイクが思い浮かびます。
さて、Specと参りましょう。
Spec of MC 930
- Transducer type
- True condenser
- Operating principle
- Pressure gradient
- Frequency response
- 40 ... 20,000 Hz
- Polar pattern
- Cardioid
- at 1 kHz (0 dB = 1 V/Pa)
- 30 mV/Pa = -30.5 dBV/Pa
- Nominal impedance
- 180 Ω
- Load impedance
- 1000 Ω
- Max. SPL at 1 kHz
- 125 dB
- with pre-attenuation
- 140 dB
- Signal-to-noise ratio rel. to 1 Pa
- 71 dB
- A-weighted equivalent SPL
- 16 dB
- Low-cut filter
- switchable, 6 dB/octave at 250 Hz
- Power supply
- 11 - 52 V phantom power
- Current consumption
- 4.6 mA
- Connection
- 3-pin XLR male
- Length
- 128 mm
- Diameter
- 21 mm
- Weight without cable
- 115 g
最大音圧が140 dB SPL、感度が-30.5 dBV/Pa、セルフノイズが16 dB(A)というあたりはAKG C451 Bよりやや優秀な数値(1)といってよいでしょうか。
感度がC451 Bより高めなのでセルフノイズもさほど気にならないでしょう。SpecだけからですがAKG C451 BというよりはsE electronics sE8に近い(2)かもしれません。
(1): C451 Bの最大音圧は135dB SPL,感度は-40.9 dBV/Pa,セルフノイズが18 dB(A)
(2): sE8の最大音圧は159dB SPL,感度は-32 dBV/Pa,セルフノイズが13 dB(A)
Sound Impression of MC 930 STEREO SET
さて、Specでは音は語れない、とはよく言ったもので、似た周波数特性曲線を持つマイクでも音が異なる、というのはよくあります。ここは自分の耳を信用しての試聴です。
お借りしたデモ機を確認がてらハンドヘルドの状態で軽くチェックしました。ペンシル型を直接持っているのでハンドリングノイズは凄まじいですが、そのノイズにも量感があります。これは期待できます。
For Grand Piano of classical music
今回Pianoに使用する機会を得ました。無名のブランドをいきなり本番で使用するのは無謀ですがbeyerdynamicであれば、その心配はありません。今回はPleyel(Fernch)に使用してみました。そうです、あのF.Chopinが愛したと言われるあのPleyelです。演奏家は東京藝術大学大学院を修了した方です。
NY SteinwayとPleyelという2台のピアノを演奏する、というリサイタルのLive recordingです。当初は別のマイクで録音しようかと思っていたのですが、MC 930が使えるなら使います。ピアノはアタックもあり音域も広いのでマイクテストの対象としてはもってこいです。
さて、今回収録の対象となったPleyelですが、1838年に製作された製品とのことです。NY Steinwayより一回り小ぶりなGrand Pfという印象です。一方NY Steinwayは1917年製造とのことですから、80年ほどの開きがあります。ブランドも製造時期も異なっていますから楽器の音色自体もだいぶ異なります。
パッと聴いた印象はNY Steinwayは「我々が"Grand Pf"と認識しているあの音」というものですがPleyelのそれは「どちらかというと、Clavichordやharpsichordに近い、中域の成分が多いGrand Pf」という印象です。ダイナミックレンジも異なる印象です。Pleyelはfff(フォルテシモ)は出せないのでは、という感じの印象を受けます。もちろん構造としてはハンマーが弦を叩いているのですが、ボディサイズが小ぶりなこともあってか音色も(NY Steinwayに比べて)少しこじんまりした印象です。
リサイタルの内容は1部と3部がNY Steinway、2部がPleyelの演奏という内容です。客席側から観て、手前にPleyel、奥にNY Steinwayが配置されています。会場は中域の響きが美しいホールです。主催者、演奏家といろいろ話し合った結果、2台のPfにそれぞれStereo on-mikingを、2階のバルコニーにStereoでのMain Mic(3点吊りマイクのイメージ)をせっかくの美しい響きを収録しようとGun micを2本用意しました。
Classical musicの録音という意味では邪道なのかもしれませんが、リリース形態もわからなかったので潰しの効く状態にしておきました。
Mic arrangeは色々考えたのですが、NY SteinwayにsE8(sE electronics)、PleyelにMC 930(beyerdynamic)をしようすることにしました。MikingはRockやJazzの観点からだとOff-mikingということになろうかと思います。ほぼORTF settingのsE8とMC 930を配置します。前述の通り音のレンジ感がだいぶ異なりますので同じような配置、にはなりませんでした。Pianistと2,3回視聴して場所を確定しました。
NY Steinwayは斜め45°くらいの角度でハンマー部から1.5mくらいの距離でしょうか。Pleyelも当初ハンマーから1.5mくらいの場所に設置したのですが、試聴/調整の結果、高さを下げ、横から、という表現に近い場所になりました。ピアニストの方が、マイク位置を変更した時のその音の違いに驚いてらっしゃたのが印象的でした。
さて、収録も無事終わり、後日dataを確認しました。
なるほど、Pf自体が違いますし、曲も異なりますからかなり違った印象です。MC 930はPf自体の音色とマイキングもあって、ややマイルドな感じのpfの音です。NY Steinwayとくらべてチャーミングな音色のPfサウンドが収録できました。
収録時、マイクは置きっぱなしだったので、楽器の配置の関係でMC 930にはNY Steinwayの音も飛び込んで来るわけですが、SOLOで切り替えて、パッと聴いたときの印象で一番バランスが良かったはこのMC 930で収録したNY Steinwayの音
でした。
For grand piano of poplar music
別のタイミングでPf+vocalのLiveにて使用してみました。Classical musicではないのでPfの内部に配置します。現場はよく伺うLive houseで、これまた何度かOpeを対応させてもらったSinonさんの現場に持ち込んでみました。Pianistは前回もいらしていただいた上條 瑞穂さんです。
伸びやかな歌声のSinonさんとそれを支える上條さんのピアノの組み合わせはいつ聴いても素晴らしく、今回もOpeを担当できるのを楽しみにしていました。そこにMAJ/ABのK田さんからデモのお話を頂き、これを渡りに船
と言わずして何と言う、と気持ちで会場に持ち込んだ次第です。
前回は会場備品のマイクのAKG C451 BとC414を使用しましたが今回はC451のreplacementとしてMC 930を使用しました。
PianoはYAMAHA C5で、Hammerの上部あたりにNOS方式に近い状態で配置しました。他にも2本のマイクを配置し、MC 930でアタックを中心に、残りの2本でサステインを中心に収録するイメージです。
完全な余談ですが、Sinonさんと上條さんの演奏が素晴らしいのは既述のとおりですが、MCで上條さんが時折見せる生粋の大阪人キャラ
も個人的にはツボで楽しませてもらっています。
さて、話をマイクに戻しましょう。
調律を終えたPfに先程のようにマイクを配置し、調律師の方にご協力いただき軽くGainを取ります。
我々が認識しているPfの音は反射板から跳ね返った楽器の音なので、マイクをある程度内部に配置すると少し違った印象を受けることがあります。無理ない範囲でEqで修正し、リハで上條さんと相談しつつ多少マイキングを修正です。
リハ後、折角なのでマイキングの状態を写真に収めていたのですが、Liveの終了後片付け中に、上條さんから「さっき撮っていたマイクの写真いただけませんか...?」とリクエストを頂きました。「構いませんが、どうしてですか?」と訊くと「今日のピアノの音が素晴らしかったので、自分で録音する時の参考にしたい」と、この上ない要望です。
お客さんから、Live自体も良い評価をいただけたようで、今回の音がその一助になっていればと願うばかりです。
Live recordingだったので、そのDataを後日改めて聴いてみました。Live会場ではどうしても生楽器の音が混ざりますのでいつもの環境で試聴です。
Pro ToolsにDataを取り込んでSoloで聴いて驚きです。非常に整った音で録音されており、「そうそう、こういう音で録音したかったんだよね」という印象です。
残念ながら僕のマイキング技術が劇的に向上したとは考えにくいのでマイクの音質と捉えるほうが自然です。
後日代理店の方にも聴いてもらったのですが、「はぁー、もうこれでいいですね!」とお褒めの言葉をいただきました。
For Ds recording
更にDsも録音して試してみました。すべてNo EQ/No Dynでの感想です。
for overhead
まずoverheadのマイクとして配置し、収録、試聴です。
OverheadなのでCymbalの音が中心に収録されていますが、耳が痛い感じの高域ではなく、キメが細かくしっとりした感じの高域で上品さを持っています。また、Kick drumまでワイドレンジに録れています。距離感もきちんと表現できる非常に優秀なマイク、という印象です。
Drum kitをMulti mikingしたのでOverheadのMC 930 Stereo + Kickのマイクで聴いてみたのですが、流石にFloor Tomは少し薄いながらもなかなか良いバランスでDs kitが再現されています。
for Ride & Hi-Hat
マイクを入れ替えて今度はMC 930をRide cymbalとHi-HatのMicとして使用してみました。MC 930が、Overheadのときと比べてRideとHi-Hatに近くなりますから、音像がfocusされた状態になります。
先程の高解像度な性能はここでも健在で、RideとHi-Hatに先程のは異なる印象の艶が加わります。先程のしっとりとした印象を覆す、いうと言い過ぎかもしれませんが、MC 930の新たな側面が垣間見えた印象です。ここでも耳の痛くない音の傾向は持っており、不思議な印象を受けます。
高域が繊細に捉えられ、シズルのついたライドシンバルなどはこの上ない音で録れそうな印象です。
for Snare drum
MC 930本体に搭載されている-15dBのAttenuationを入れてSnare drumのトップに使用してみました。いつもダイナミックマイクと併用するのですが、Faderを上げるといい感じのしなやかさが加わる印象です。
SnareのClosed rim shotが美しい音、というとそのイメージが伝わりますでしょうか。
実際に試せた訳ではありませんが、アコギ、ウインドチャイム、タンバリンなどにも非常に有効なだと思います。
Afterwords
今回可能性を感じて色々試してみましたが、どのテストの結果も期待を裏切ることなく好印象です。むしろ期待の上を行く音質を提供してくれています。
あえて、文句をつけるとするならば、Stereo setなのにStereo Barが付属していないということくらいでしょうか。
音全般には一切文句がありません。自分のコレクションに加えたくなりました。
date:
checker:Takumi Otani
beyerdynamic,MC 930 STEREO SET
ショップページへ