LAUTEN AUDIO
LS-308

今回のReviewはマイクです。Lauten Audio LS-308というコンデンサーマイクで、指向性に特徴があるマイクでLive Recなどには歓迎されそうです。

早速見ていきましょう。

Product Overview of LS-308

以前Lauten Audio TOM MICのレビューを記載しましたが、同社の新たらしいシリーズに可能性を感じた僕は今度はSYNERGY シリーズのLS-308を試すことにしました。

マイクスタンドへのマウント方法が2種類ありそれも好感が持てます。下に掲載した写真のようなボディ横に装着する金具とは別に、本体底部のネジ構造部に取り付け可能なマウント金具も付属します。

まずはSpecと参りましょう。

タイプ
SIDE-ADDRESS PRESSURE GRADIENT FET CONDENSER
カプセル
32mm
POLAR PATTERNS
SECOND-Order Cardioid
周波数帯
20Hz ... 20kHz (7kHzからロールオフされます。)
ダイナミックレンジ
> 135dB
MAX SPL
>135dB SPL (0.5%THD@1000Hz)
インピーダンス
>150 Ω
セルフノイズモデル
< 15dB(A)
感度
10.5m/Pa -46dBV (0dB=1V/Pa 1kHz)
HPF
Flat,50Hz,120Hz
LPF
Flat,8kHz,10kHz
コネクター
3-PIN XLR
電源
要ファンタム電源48V
LAUTEN AUDIO LS-803周波数特性曲線
LAUTEN AUDIO LS-803周波数特性曲線
LAUTEN AUDIO LS-803指向性曲線
LAUTEN AUDIO LS-803指向性曲線

指向性に特徴がありますね。2nd order cardioidとあまり聞き慣れない指向性です。メーカーの謳い文句に拠れば、軸外270°の音を除去、とありますから音源方向の軸0°に対して45°開いているイメージでしょう。

実際に指向性のグラフからは正面方向の以外の感度は非常に低く、45°,315°あたりで感度は-6dBになっているように見受けられます。

余談ですが、一般的な単一指向性は感度が半分になる角度は軸上0deg;に対して±90°です。-6dBの場所ですね。その観点からすると有効指向角はもっと狭いのかもしれません。

馴染のある指向性に対してHalf sensitivity(-6dB)の角度などをまとめてみました(あくまで原理的にです)。音源方向軸上を0°に0 ... 360°の範囲で記載します。

無指向性単一指向性双指向性2nd-Order Cardioid
指向性イメージ無指向性イメージ

Red line

単一指向性イメージ

Green line

双指向性イメージ

Blue line

2nd-Order Cardioidイメージ

Red line

極座標形式$$r=1$$$$r=\frac{1+\cos\theta}{2}$$$$r=|\cos\theta|$$$$r=\frac{1+2\cos \theta + 2\cos 2\theta}{5}$$
-6dB points-90°, 270°60°, 300°
120°,240°(Phase Invert)
約45°,約315°
-∞dB-180°90°, 270°約72°,約144°,約216°,約288°

数式によるアプローチ

Ehrlund EHR-Tのレビューと同様(?)数学的にもアプローチしてみました。

無指向性と双指向性を組み合わせて作れる指向性は、無指向性と双指向性はもちろん、広指向性、単一指向性、鋭指向性などがあります。単一指向性のバリエーションにWide-cardioid, Supercardioid, Hypercardioidなどがありますが、メーカーによって若干差がある印象です。それを踏まえて普遍性のある数式による表現もアリかと思い、カリカリやってみました。

一般的に、無指向性と双指向性を組み合わせて作れる指向性$ D(\theta) $は、軸からの角度$\theta (\in [0,360°)$とパラメーター$p\in [0,1]$を用いて

$$D(\theta) =| p+(1-p)\cos \theta |$$

と表せます。$k,l \in [0,\infty)$を用いて

$$D(\theta) = \frac{|k+l\cos\theta|}{k+l}$$

と記載しても同じです。後者のほうが馴染みがある方が、僅差ながら多いかもしれません。

変数が少なくて済むので前者の式で進めていきますが、

無指向性$D_o$の場合、$p=1$です。また、双指向性の場合は$p=0$となり、$$D_b(\theta)=|\cos \theta|$$となります。

単一指向性$D_c$のときには$p= 1/2$となり、$$D_c(\theta)=\frac{1+\cos \theta}{2}$$となります。

これらの式において、$D_o, D_b, D_c$の値をそれぞれ$0$と$1/2$のときの$\theta$の値が上の表の-6dB Pointsと-∞dBになります。

さて、狭指向性(Supercardioidと呼ぶことにします)ですが、今回は$p=0.375$として進めていきましょう。$$D_s =\frac{3+5\cos \theta}{8} $$における$D_s=0,1/2$を求めればよいということです。計算すると感度が-∞dBとなる$\theta$の値はおよそ127°,233°、感度が-6dBとなる$\theta$の値は78.4°,281.5°です。

さて、LS-308は2nd order cardioidということですが、こちらは$j,k,l \in [0,\infty)$を用いて

$$D_{2nd}=\frac{|j+k\cos\theta+l\cos2\theta|}{j+k+l}$$

という形式になります。LS-308の値は$j=1,k=l=2$のようで

$$D_{LS-308}=\frac{1+2\cos \theta + 2\cos 2\theta}{5}$$

となります。

グラフからも0°から角度がつくに連れ急激に感度が低下しているのが見て取れます。105°,255°辺りに感度の上昇が見られますが、それでも1/4くらいでしょうか。-12dBということになります。180°辺りの感度は0.2、-14dBくらいですね。

YouTubeからの考察

実際に同一空間でバンドの同時録音をした動画が公式のYouTubeにありました。

0:46辺りからそれぞれの回線がsoloで出てきますが、カブリがほとんどないのが非常に特徴的です。通常カブリに関してはGate/Expander、Automation、Editなどで除去するのが普通かと思います。またAI搭載のPlug-inや指向性を録音後に変更できるマイクもありますのでRec/Mixであればそういうツールの活用も可能です(The Beatlesの"Now and Then"は、AIが、デモテープからJohn Lennonの声を分離できることで完成したのは記憶に新しいですね)が、Liveに関してはまだ無理な場合もあるでしょう。実際Digital ConsoleでAIを搭載しているモデルはまだまだ少ないのが現状です。Liveにせよ、Recにせよ、Micの段階で余分なカブリがなくCleanな音が得られるのであればそれはそれでwelcomeです。よく伺うLive houseがLive Recも行っているのでカブリに関しては事前に制御できたほうがありがたいです。後処理でなんとかなる部分もあるのだと思いますが、録音時になんとかできていればそちらの方が確実だと感じます。

周波数特性は20 ... 20kHzですが、7kHzからRoll-offしていくとのことです。どうやら前述の鋭い指向性の副産物のようで、リボンマイクのような音色、とのことです。

メーカーページにも

"Creating a microphone with such strong off-axis rejection had a unique timbral side-effect -- a sound similar to a ribbon microphone but without the fragility."
(強力な軸外除去特性を持つマイクを作ることでユニークな音の副産物(リボンマイクに似た音質ですが、壊れやすいわけではありません)を得ました。)

と記載があり、やや暗めの音質であることが示唆されています。

音質に関してはEQで多少の制御が可能ですが、カブリはそうもいかない場合があります。欲しい音だけがピンポイントで拾える、カクテルパーティ効果を持つようなマイクが出てくるのはまだまだ先でしょう。

Sound Impression of LS-308

実際の音に参りましょうか。LS-308の2nd-Order cardioid特性(指向性の狭さとリボンマイクのような音質)を活かす用途としては

  1. DsのMulti Mikingの際の分離の確保
  2. Live Recの際のLeakageの抑制

が思いつきます。僕はE.Gtのamp収録にはRibbon micをよく使用するので、Gt ampに対して使用するのは違和感は一切ありません。

Dsのleakageに関してはうまくコントロールできればまだPlusに作用する可能性もありますが、Live Recの場合には(会場の広さなどの諸条件に依存しますが)E.Gtの回線にSnareがカブってきたり、A.Pfの回線に他の楽器がカブってくるとMinusにしかならない印象です。

現在は優秀なAmp simulatorも多くあるので、舞台上でアンプが鳴っている状況は昔に比べれば減っている(先日Moon Safariの来日公演に行った際には、舞台上にアンプが一切ありませんでした)のかもしれませんが、まだまだそうではない会場のほうが多いのではないかと思います。また、真空管アンプをきちんとドライブしたい、という演奏家も多いと思います。

さて、この表現もおなじみになってきましたが、Opeによく伺うLive Houseに持ち込んで試してみました。Live Recを行っているのでピッタリの環境です。

今回の編成は

です。

Floor, Rack tomには以前にレビューしたLauten Audio TOM MICが使用されています。用意できた本数の兼ね合いもあり、今回はE.Gtのampに使用することにしました。

E.Gt ampの位置がDsの斜め前、ということもありカブリの確認にも良いだろう、との判断です。LS-308にはPadはありませんが、Max SPLが135dB SPLということなので問題ないとの判断です。

この日のGuitaristは養父 貴さんでした。過去にも何度もご一緒させてもらったことがありましたが、とても素敵なGt SoundをSignatureとしていらっしゃる演奏家という印象です。

前述の通り、マイクスタンドへの取り付けが2種類ありますので、結構自由度があります。

setting時に、「そうそう、今日、養父さんのために新しいマイク持ってきたんですよ~。」と雑談がてら、話していたのですが養父さんも「え、リボンマイク?」「なんていうブランド?」と興味津々です。

Sound checkに移り、Gainを適正に設定し、Faderを上げてみます。まだ新しいせいか、高域に少し耳に痛い部分がありますが、コレばっかりは仕方ありません。少しマイキング変更してアンプからの音に近づけました。

リハに移りバランスを取っていくわけですが、Faderの上下に対するレスポンスが非常に優秀、という印象を受けました。指向性がタイトなせいか、くっきりとした音像が得られます。Leakage(カブリ)が少ないので他の楽器への、他の楽器からの影響も少ないからでしょう。

本番も無事終わり、そういえば、と養父さんにLive Recの音を確認してもらいました。僕もLeakageを確認したかったので一緒に試聴です。

養父さんの第一声は「アンプで作った音がきちんとそのまま収録されている!ちゃんと俺の音してる!!」とマイクのポテンシャルを感じていただきました。冗談半分に「これなら(ここまでカブリが少なければ)、修正も可能だ!:-)」ともおっしゃっていました。

Leakageの確認もしましたが非常に分離よく録れています。

指向性が鋭くなると近接効果が顕著になる印象ですが、それほどでもありませんでした。

Separationの効いたスタジオでの録音には流石にやや及ばないのかもしれませんが、非常に好印象です。

指向性の鋭さで言えばShotgun micのほうが上位なのだと思いますが、Gt ampの前にあの長さの棒状のマイクがあるのは邪魔以外の何者でもありません。

他の楽器と同時に演奏することがあり、収録が大変そうな他の楽器、例えばGrand PfやMallet instrmentなどにも有効だと思います。

Afterwords

なかなかにユニークなマイクを見つけた、という印象です。

Shot gun micが有効な場合も多々あると思いますが、サイズや形状でうまく仕込めない場合など強力な選択肢です。

LAUTEN AUDIO,LS-308 画像

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