GRACE design
m303
今回はDirect Injection Box、通称D.I.を見ていきます。マイクと並んで入力の初段を担う重要な機材ですね。最近はOutboard HAやAudio I/FにHi-Z
なる端子が装備されることが多いせいか、持っていなくてもなんとかなったり、LiveでもBassistから、「足元(=エフェクター)のPre Amp XLR outから取ってもらえますか?」と言われることも少なくありません。
そんな状況下でGrace Designがリリースしたm303、早速見ていきましょう。
Product Overview of m303
D.I.のリリースはマイクのそれに比べると少ない印象です。レビューで取り上げた製品もRaDIal JDI、Avalon Design V5くらいでしょうか。
マイクもD.I.もFlatな周波数特性がよく注目されがちですが、僕個人はそこまで気にしていません。むしろ多少なり癖があったほうが面白いと思っています(測定用マイクは別)。
Specと参りましょうか。
- Gain
- Pad Off, 13.6k Ohm load: -6dB
- Pad On, 13.6k Ohm load: -19dB
- Frequency Response
- ± 0.2dB (50Ω source, 13.6k load): 82Hz-27kHz
- ± 3dB (50Ω source, 13.6k load): 20Hz-80kHz
- THD+N 20Hz-20kHz BW
- -10dBu out, 1kHz: -102.8dB (0.00072%)
- -10dBu out, 50Hz: -83dB (0.0073%)
- -10dBu out, 25Hz (10Hz-20kHz BW): -72dB (0.023%)
- Intermodulation D.stortion -10dBu Out
- SMPTE/DIN 1:1 (50Hz, 7kHz): -106dB (0.0005%)
- SMPTE/DIN 4:1 (50Hz, 7kHz): -99dB (0.0010%)
- Noise - Output Level 20Hz-20kHz
- Pad Off, 50Ω source: -116.2dBu
- Pad Off, Input disconnected (equivalent to 330pF source): -112.3dBu
- Pad On, 50Ω source: -113.1dBu
- Pad On, Input disconnected (equivalent to 330pF source): -113.0dBu
- Noise - Output Level A-weighted
- Pad Off, 50Ω source: -118.6dBu
- Pad Off, Input disconnected (equivalent to 330pF source): -114.9dBu
- Pad On, 50Ω source: -115.5dBu
- Pad On, Input disconnected (equivalent to 330pF source): -115.2dBu
- Phase Deviation
- <10°: 97Hz-7.5kHz
- Maximum Input Level (0.1% THD+N)
- 1kHz, Pad Off: 14dBu
- 1kHz, Pad On: 27dBu
- Maximum Output Level (0.1% THD+N)
- Balanced, 1kHz, 13.6kΩ Load: 8dBu
- Balanced, 1kHz, 3.65kΩ Load: 7.3dBu
- Impedance
- Input Pad Off: 1MΩ
- Input Pad On: 115kΩ
- Output: 330Ω
- Power Supply
- 48V Phantom Power, IEC 61938: 4mA max
- WEIGHT
- 480g
- SIZE
- 134mmL x 81mmW x 44mmH
HPFがBuild-inされていますね。-12dB/oct.@20HzのBessel filterです。Analog Synthなどから出力される可能性のあるDCに近い状態の低周波を除去可能です。
Noise Levelも-120dBに近い状態で非常にquiet
なD.I.といってよいでしょう。
駆動電源はP48に限られます。
位相偏差も97Hz ... 7.5kHzで10°未満となかなか優秀な印象です。位相偏差(Phase Deviation)は記載されないことが多いパラメータですが、記載するということは自信があるのでしょう。
位相偏差は注目されづらいのですが、意外と音質(むしろ音色)に影響が出るfactorです。可能であれば周波数特性と並んで曲線で表記されるとわかりやすくてよいのですが。
PADも搭載しており、ON/OFFでInput Zの値も変更となります。OFF=1MΩ,ON=115kΩですから、Passive Bassや、Piezo出力のギターはOFF設定にすべきでしょう。一方KeyやActive Bass、Pedal preampなどで増幅された回路ではON設定が有効かつImpedance Matchingが取れた状態となるでしょう。
BOSSのDI-1もATT.の値でInput Zが変化しますね。
更に、カスタムのLundahl transformerを搭載しています。これにより驚くべき低域の明瞭さと美しい高域のディテールを、圧倒的なローノイズ性能をもって出力可能とのこと。
あと好感が持てたのがD.I.のhousingのサイズです。スイッチ類の誤作動を防ぐべく設計されており、countrymanのtype seriesと同じ気遣いを感じます。更にはトグルスイッチがコンパクトなため、誤作動は尚の事、防がれている印象です。
他にも好印象な部分が、power indicatorとpeak indicatorです。D.I.使用時にはHA側で信号が得られない場合やHAを絞りきりでも歪んでしまう場合、どこに原因があるのか分かりづらい、ことがあります。事前の回線チェックに立ち会えていればよいのですが、そうでもない場合など、D.I.までのInput側のNGなのかD.I.より後段のXLR側のNGなのか、D.I.に起因するNGなのかの判定にMic使用時より若干時間がかかります。電源などに起因するGNDの問題もあればPADの設定エラー、はたまた+48Vのかけ忘れなどです。
GNDエラーはHum noiseが出たらGNDを切り離してみて良い方を選べばよいですが、音が歪んだときなどにはそういう音
なのかD.I.で歪んでいるのか
が不明ですし、XLRケーブルの断線などで+48Vが掛かっていないこともありえます。
Sound Impression of m303
さて、初回入荷分の予約にタッチの差で遅れ、少し出遅れた感のある状態でチェックです。
届いた製品は程よい重量感があり好印象です。プラスチックのパーツが少なく堅牢性にも期待が持てます。
PAの現場に持ち込んでドサクサに紛れてのチェックです。初めてOpeするの方々ではないので多少は参考になるかなと。
このときはKeyboardに使用しましたが、ざっくりと記載すると、解像度が高く、非常にクリーンでありつつ埋もれづらい音質
という印象です。E.BassやA.GtのPre amp pedalのXLR out(=D.I.機能)であれば多少は音質に癖が有ってもPlusに働くことは多いと思いますが、汎用のD.I.であれば、何も足さず、何も引かず
の信号が得られるのがありがたいです。
おそらくm303にカスタムされたであろうLundahlのトランスも良い仕事をしているのでしょう。
レビューよく登場するよくOpeに伺うLive House
に持ち込んで使用してみました。2 daysのイベントがあり、初日は会場備品を使用したのですが、終了後、出演者さんと話していた時に、そういえば、という話になり持ち込んでみました。もちろん出演者サイドの許可はとってあります。D.I.もある意味ではtransducerですから音質に変化があっても不思議ではありません。このときのBassistはPRISM,他多くのsessionで大活躍の岡田治郎さんです。演奏が悪いわけは微塵もありませんので音に問題があれば機材か僕のOpeのせいです。リハ時の印象は低域がどっしりしていて5弦ベースの開放弦の低域がゆとりを持って再生されている印象です。
リハの途中、治郎さんが「アンプ鳴らさなくても全然いけちゃうんですよね...。」とおっしゃっていたのが印象的でした。
数日後、録音Dataを確認してみました。演奏曲は同じではありませんが、同じ演奏家が同じベースを使用していて、異なるのはD.I.だけなので違いを推し量るにはもってこいです。
Soloでの比較ですが、会場備品のD.I.と比べてm303のほうが低域がしっかりしている印象です。会場備品のD.I.が低域がスカスカというわけではありませんが、高域のほうが先に聞こえる印象、というと伝わりますでしょうか。位相の偏差によるものかもしれません。5弦ベースの低域がどっしりと収録されています。会場備品のD.I.も決して悪いものではないのですし、Acoustic Gtの様にこの音質がハマる楽器も多く存在すると思います。価格が倍以上違いますから同じ音質を期待するのも気の毒と言うものです。上位機種であればいい勝負してくれたのかもしれません。
別のタイミングでやはり5弦ベースに試してみました。この日のBassistはJuna Serita(THE JAZZ AVENGERS)さんです。彼女はPJB BP-800+C8を使用していますが、僕のPJBに対する印象はストレートでワイドレンジなBass Soundを再生してくれるブランドというものです。
PJB C8の再生帯域は25Hz … 15kHzとのことですが、小口径のユニットが集積しているCabinetは、スピードはあって良いのですが、どうしても低域の伸びに欠ける印象があります。
その部分をカバーする、というのもD.I.の(というかLineの)役割だったりするわけですが、JunaさんにD.I.のみの音を確認してもらいました。その印象はポジティブなもので気に入ってくれたようでした。
実際にはD.I.とMicの音をMixしてOpeを行いましたが、後日Junaさんに感想をお伺いすると、「クリアに低音が出ました!!スラップした時も気持ちいい場所が抜けました!!」とのお言葉を頂きました。
Afterwords
Grace Design m303のレビューに際して振り返ってみれば、KLARK-TEKNIK, Rupert Neve Designs, Avalon Design, Phoenix Audio, Pueblo Audio, BAE AudioなどoutboardメーカーがD.I.を生産していることに気が付きました。こうなってくるとGrace DesignのラインナップにD.I.がなかったのが不思議なくらいです。そういえばSSL, apiにもありませんね...
D.I.機能を搭載しているoutboardではなく、シンプルなD.I.として音の良い(一番大事)製品です。
date:
checker:Takumi Otani
GRACE design,m303
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