ENHANCED Audio
M600
Product Overview of M600
今回の機材レビューはENHANCED Audio M600を取り上げようと思います。コレは端的に言うとマイクホルダーです。
ユニバーサルマウントで、直径は65mm以下のものであれば3点×2の計6点でしっかり固定できます。
結構いろんな種類のマイクが固定出来ます。下はその例です。
マイクホルダーというと皆さんどのような印象がありますか?マイクをスタンドに固定するために必要不可欠なもの
というのが皆さんの印象であり、マイクホルダーの定義ではないかと思います。
高価なマイクには専用サスペンションなどが付属しますが、程度の差はあれ基本構造はゴムで本体をフローティングさせたモノがほとんどです。
確かに振動などには強いのですが、それだけです。逆に言うと外部からの振動を本体に伝えないと言うことは、本体が振動したときにその振動を外部に伝えず、マイク本体がしばらく振動することを意味します。
「重たいスピーカーはよい音がする」とよく言われていますがその理由は、自分が振動せずに、周りの空気だけを純粋に振動させることが出来るから
だといいます。マイクも逆の理由で、自身が振動せずに、周りの空気振動だけを純粋に拾い上げる
ことが出来れば、無駄にゲインをあげることなく、更に低域特性の改善も狙えるはずです。それを製品化したのがENHANCED Audio M600です。
僕もこの製品を発見したときに、「なるほどな」と思いましました。
考えてみればちょっと不思議ですね。モニタースピーカーは数多く発売され、様々な選択肢があります。そのチューニングノウハウが確立され、インシュレーターなどのチューニンググッズも数多く存在します。マイクホルダーはマイクをじかに支える部分なのに長い時間放置されてきた印象があります。マイクスタンドの防振等は自分でも行っていますが、マイクホルダーで防振とは一本とられた気がします。
さて、箱を開けると説明書も何も無くエアキャップに包まれたM600があります。あとはDavid Browne氏の手書きの"Thank you"というコメントが!なんとなく嬉しくなりました。
Sound Impression of M600
さて今回のチェックはSHURE BETA57Aを2本用意し、それぞれ同じHA,同じケーブルを使用して収録してみました。その後試聴です。片方にはM600を使用し,、もう片方にはメーカーが販売しているマイクホルダーA25Dです。
マイク自体の個体差ですが、基本的に同時期に購入したものですので一聴して分かるような、明らかな差はありません。
対象楽器は適度にサステインがあって、低域から高域まで延びていて...みたいな楽器ということで今回はFloor Tomでやってみました。アコースティックギターなども試してみたいですね。コンデンサーC414とかも是非試してみたいところです。KickにD112等もありですね。
チェックはこんな感じです。もちろんケーブルも同じ、HAも同じものを使用しました。AD-8000で48kHz/24Bit ADコンバージョンし、ProToolsでプレイバックしながらのチェックです。
まず、画面に現れた波形を見てると明らかにM600を使用した方の入力レベルが2,3dB低いということ。厳密に計ってみるとその差2.6dB。ちょっと意外でした。てっきりgainは上がるものと思っていましたから。
その差をFaderで補正し、切り替えつつのチェックです。
音色の変化としては音がマイルドになり、クッキリする感じです。あからさまに低域が延びているという感じではないです。またサステインも長く収録できています。波形を拡大するとそれも明らかです(上がメーカー標準マイクホルダー、下がM600)。
シングルヒットなのでよく聞かないと分かりづらいですが、ヘッドフォン等で注意深く聞いてみてください。サステインの感じが大分異なるかと思います。
通常のマイクホルダーとM600を使用したデータです。
たまたまそこにふらりときていたスタッフが「いやー、いい仕事しますねー!!!」とまさにぴったりな表現をしていきました。
また厳密なチェックではないのですが、kickに試したときの印象だと、低域が延び音が前に出てくる感じ、ですかね。マイナスな印象は一切ありません。
20190618追記
数年ぶりにM600のレビュー更新です。公開したのが2008年9/2だそうなので11年の時を経て加筆です。
この11年の間にAnnex RecのM600の数は6台になりました。最初は1台で頑張っていたのですが、やれステレオの回線に使いたい、マイクスタンバイを増やしたい。Triad-Orbitの導入などでいちいち変換ネジを付け替えるのが面倒、という理由でじわじわ増えてきました。
そんな中、機材のご相談を受け、遠方からthe sea falls asleep Vocal & Guitarsのクドウさんが弊社Annex Rec Studioに来てくださいました。マイクのデモをリクエスト頂いたのですが、せっかくなら弊社スタジオでいろいろ試しませんか?、と半ば強引に来ていただいた感じです。
話を聞けば、いろいろ自宅環境で録音することも増えてきてしっかりした素材をMixing Enginnerに渡したい、という思いが強くなってきたとのことでした。
HAはいつも使ってらっしゃる高級機をお持ちいただき、いつもの環境に近い状態で試聴していただきました。
デモのレビューでは無いのでどんなマイクを試したかは割愛しますが、ASTON Microphones Spiritもご所有とのこと。「いつもはホルダー何使ってますか?」と伺うと特に使っていない、とのことで「じゃぁM600試してみてください!」とspiritの指向性切り替えの音質変化に加えM600の有無を試していただきました。
試聴の結果、M600を使用することで中域の濁りのようなものが取れてイメージSpiritに持っていたイメージが変わった、とおっしゃっていただけました。
こういったホルダーってなくても使えるから、後回しになっちゃうんですよねーと雑談の中で飛び出したのですが、M600の原理などをご説明差し上げて、音質の変化もご納得いただき、目から鱗とおっしゃっていただきました。
お持ちのマイクに、「もう少しこう...」と些細な不満をお持ちの方、マイクを買い換える前にM600試してみてください。
Afterwords
今回の僕の印象を端的に表すと
オフマイクでもオンマイクのようなフォーカスされた音の収録が可能
という感じでしょうか。
Pink FolydやDavid GilmourのエンジニアのAndy Jackson氏は
It's like switching from 16bit to 24bit.(16bitから24bitに切り替えたようだ)
と言っています。
収録の結果もありますので店頭試聴可能です。