AKG
D12 VR
さて,今回見ていくのはマイクロフォンです。Kick用のマイクとしてしばらく前に発売されたAKG D12VRを見ていくことにしましょう(Hibino I藤さん,ありがとうございました)。
ちょうどwebで見かけたのが今年の2,3月くらいだったでしょうか。単なるD12の再発に収まらない機能が搭載されており,気になっていたのです。早速見て行きましょう。
Product Overview of D12 VR
さて,AKGのマイクシリーズは原則的にDynamic MicにはD
,Condenser MicにはC
が頭文字としてついています。コンデンサーマイクの代名詞の一つとも言える名機のC414シリーズやC451シリーズ,Tripower SeriesのD3500,D3800(これも隠れた名機ですね)などです。
今回見ていくD12 VRですが,これはD112の前身機種 D12のVintage Re-issueということになります。
ですのでD112の後継機種というよりはD112の叔父に当たる製品と言えるでしょう。
お約束スペックです。
- 形式
- ダイナミック型
- 指向特性
- カーディオイド
- 周波数特性
- 17Hz ... 17kHz (±2dB)
- 開回路感度
- -58dB re 1V/Pa
- 最大音圧レベル
- 164dB SPL
- インピーダンス
- 200Ω以下
- フィルター
- オープンキックドラムモード/ヴィンテージサウンドモード/クローズドキックドラムモード (48Vファンタム電圧供給が必要)
- 寸法(W x H x D)
- 101x 125 x 66mm
- 質量
- 500g
- 付属品
- マイクポーチ、特性データシート
参考になるかどうかわかりませんが比較のためにD112のスペックも記載します。
- 形式
- ダイナミック型
- 指向特性
- カーディオイド
- 周波数特性
- 20Hz ... 17kHz
- 開回路感度
- -55dBV re 1V/Pa
- 最大音圧レベル
- 計測可能範囲外
- 等価雑音レベル
- 21dB SPL(Aウェイト)
- インピーダンス
- 210Ω以下
- コネクター
- XLR 3ピン
- 寸法
- 幅70×高150×奥行115mm
- 質量
- 380g
- 付属品
- マイクホルダー SA 60
重量が少し増えていますね。アクティブフィルターサーキットを追加したのでそうなっているのかもしれません。
最大音圧レベルがすごいですねー。164dB SPL!
どうやって測ったんだろう?と思いました。まぁD112は測定不能とのことですが...。
ちなみにこの164dB SPL どのくらいの音圧かというと,(僕の計算が間違えていなければ)1m2に300kgwの力がかかっているのと同じ状況です。
人間が最もストレスの無い音圧(=聞き取りづらくもなくうるさくもない)は70dB SPL前後です。
単位がdB SPLで見ると2倍ちょっと,というくらいですが,dBは対数関数で定義されるため実際の圧力に換算すると164dB SPL(約3169[Pa])と70dB SPL(0.063[Pa])の差は5万倍以上。1円玉と米俵1表(60kg=60,000g)までは行かなくてもそれくらい,という差があります。
多分窓ガラスとか割れるくらいなんでしょう。
そんな音圧を出せる楽器があるのかどうかは別として信頼性があるのは良いことですね。自然界で最も大きい音と言われる落雷の音が140dB SPL位といいますから充分です。
もしそんな音を体感したら Back To The FutureのMarty McFly氏の様に吹っ飛ぶでしょう(w。まぁ鼓膜も吹っ飛ぶと思います。135dBくらいが音により苦痛を引き起こすレベルらしいので,その10倍の圧力ですからね。皆さんも耳は大事にしましょう。
だいぶ話がそれましたが,他の特徴も見て行きましょう。
ダイヤフラムは直径29mmの非常に薄いダイアフラムが使用されているのとのこと。これに依りレスポンスがだいぶ高まっている印象です。
また出力トランスはC414のヴィンテージモデルに使用されているトランスを採用したとのこと。
さらに48Vのファンタム電圧を供給することでスイッチひとつで状況に合わせた音質調整ができる、アクティブフィルターを搭載しています。
- オープンキックドラムモード
- 中域を減衰して低域を持ち上げ、バスドラムのパワー感を強調します。
- ヴィンテージサウンドモード
- 中域を減衰して他の楽器とのバランスを良好に保ちます。
- クローズドキックドラムモード
- 中域を減衰して低域と高域を持ち上げ、バスドラムの存在感を強調します。
とのこと。
Sound Impression of D12 VR
さて,期待が高まる中,Rec sessionと知り合いのドラマーに協力してもらってD112などとの比較試聴,という2種類の方法でチェックしてみました。
Check in Rec session
細かいチェックを行う前にいきなりRec sessionだったのですが,逆に先入観なく使用出来ました。
ダイヤフラムが薄い,というのを覚えていたのでレスポンスが早く感度も高いもの,と思っていましたがGainの設定はいつものFirst ChoiceであるD112とさほど変わらないか少し低い印象でした(のちほどスペックを確認すると3dBほど低いことを確認)。
音質の印象は「普通に良い音だなぁ」というものでした。いつもD112を使用することが多いので「?」という感覚は全くありません。「AKGのマイクで拾ったKickの音」,という印象です。なのでアクティブフィルターは特に使用しませんでした。
EQを掛けた時にD112との違いを感じました。特に高域のレスポンスが素早く,D112よりも繊細に反応している印象です。
「ドラムの音とか,これで完成してますよねー」「いい音だー」とクライアントにも評判は上々です。
使ってみての印象も「ハンドリングしやすい良いマイク」という印象です。
ラフミックスを翌日作ったのですがKickはNo-EQ/No DynでOKでした(録音時に掛どりしています)。
Comparison in test session
さて知り合いのドラマーに協力してもらって細かいチェックとをしてみました。
D112とD12 VRをFront側に設置しNon-Eq,EQ,Active Filterなどを試してみました。もちろんHAは同じ製品を使用しました。
まずNon-Eqですが,似て非なる音です。「似て」の部分はAKGサウンドといっていいのかもしれません。ある意味聞き慣れた音ですが,厳密に聴かないと違いが判らないというレベルではなく,「あー結構違うなー」という印象です。
D112を基準にいうともう少しワイドレンジに収録できている気がします。腰高になるのではなくKickらしさもしっかりあるのですが,EQやDynのレスポンスがよさそうだな,という感じという印象です。
というわけで録音の時にアナログEqを施してみました。だいぶ異なる音です。高域のレスポンスが全く違います。
周波数特性曲線と指向性を下に掲載しておきます。左がD112mkII,右がD12VRのそれです。
D112が低域と高域にピークがあるのに対し,D12 VRは低域側から高域に掛けて緩やかに感度が上がっています。
この当たりがEQのレスポンスの違いに出たのでしょう
さて,さてアクティブフィルターです。
+48Vをかけるとスイッチが光りフィルターが有効になっているのが判ります。色分けされており暗いステージでも現在どのモードを選んでいるのかが判ります
- オープンキックドラムモード
- 緑色
- ヴィンテージサウンドモード
- 紫色
- クローズドキックドラムモード
- 青色
各モードの印象ですが,
- オープンキックドラムモード
- ロックからポップスまで幅広く使えそうな扱いやすい音
- ヴィンテージサウンドモード
- ジャズやファンクなどにマッチしそうな音,少しこじんまりした印象
- クローズドキックドラムモード
- LiveHouseっぽい感じのややドンシャリ感のある音。
という感じでしょうか
Liveではもちろん,Recでも予め音の方向を絞り込むことができる有効なツールと言えそうです。
Afterwords
うーん,またほしいマイクが出てきてしまいました...。
気にになっている人はテストセッションのデータもありますのでお気軽にご来店ください。
date:
checker:Takumi Otani
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